学生女王・出澤杏佳の「すごさ」。
パワー対パワーではなく、
相手の嫌なところを突く卓球

粒高だけど弾きやすい「P5」
「このラバーしかない」「VO>102」

IDESAWA, Kyoka

出澤杏佳
2023年全日本学生チャンピオン
専修大3年

●●● 出澤杏佳●いでさわ・きょうか
2002年6月28日、茨城県生まれ。小学1 年制で卓球を始め、半年後に日立大沼卓球クラブで小貫美穂子からコーチを受ける。2012年全日本カブで準優勝、四天王寺中学校に進みも全日本カデット3位になるが、地元茨城の泉丘中に転校、大成女子高の時に全日本ジュニアで優勝。専修大入学後、2022年全日本大学選手権シングルス準優勝、2023年ワールドユニバーシティゲーム(旧ユニバーシアード)で銀メダル獲得、同年の全日本大学選手権シングルスで優勝を飾った ●●●

「私、変なんですよ。だからこの用具が合っているのか、それともこの用具を使ってから変になったのか・・・」。学生女王は実に面白いコメントを発した。
フォア表ソフト(「VO>102」)、バック粒高(「カールP5V」)の異質攻撃型。バックの粒高はスポンジなしの一枚ラバーだが攻撃が多い。用具もユニークならば人間的にもユニークだ。
2019年の全日本選手権ジュニアでいきなり優勝した時には、誰もが「特異な用具を駆使した変則プレーヤー」と評したが、今回の全日本学生では変化だけでなく、攻撃や戦術を駆使し、見事な優勝を飾った。

相手にとってやりづらい出澤のボール、そのボールを操るために彼女は通常の攻撃選手の想像を超えるような練習を課している。
出澤杏佳は「用具選手」ではなく、「用具を操る高潔な女王」になった。

●ー卓球を始めた頃は何を使っていたんだろう。

小学校1年生でスポーツ少年団で半年間ほどやっていました。卓球を始めた頃にはシェークの両面裏ソフトで始めたんですけど、コーチの小貫美穂子(日立大沼卓球)さんの卓球クラブに入ったら初日でラバーを替えられた。ラケットを取り上げられて、ラバーをはがされて、渡されたら違うラバーになっていました(笑)。それが今のラケットです。小学1年だから、「あれ、なんかさっきと違うぞ」という感覚しかなかった(笑)。ひざが曲がらなくて棒立ちだったから小貫さんは変えたみたいです。
バックの粒高、当時はTSPのカールPH(現在はVICTASの「カールP5V」)、フォア面はニッタクの「閃霊」というラバーで、テンション系ではないので攻撃もしにくかった。その後、「ハモンド」の表ソフトを使っていました。
裏ソフトでドライブを使う選手は体ができていて身体能力が高くないと難しいけど、当時の私の目標は「バンビの県大会で優勝すること」だったので、このラバーになったようです。結果としては良かったかもしれないけど、この戦型はかなり苦しいです(笑)。ふとした瞬間にその苦しさを感じています。

フォアの安定した強打とバックの変化攻撃を武器に学生の頂点に立った出澤 <写真は2023年1月の全日本選手権>

フォアの安定した強打とバックの変化攻撃を武器に学生の頂点に立った出澤
<写真は2023年1月の全日本選手権>

●ー卓球を始めて何年なんだろう? ずっとこの戦型ですよね?

卓球はちょうど15年やっていますね。最初の半年間は裏ソフトですが、その後はずっとフォア表ソフト、バック粒高です。ただ、四天王寺中1 年の全日本カデットの2カ月前にフォア面を裏ソフトにしています。全日本カデットで3位に入って、大会終わって、次の日からカットマンになるように言われました。意図としてはカットして後ろからドーンと反撃するということだったみたいです。
でも、私はもともと足が突っ立って、裏ソフトのドライブマンができないから、この戦型になったのに、カットマンだと相当に動かなくてはいけない。「これ、なんでだろう」と思いながらも言われるがままでした。
フォア裏ソフトでバックは表ソフトのカットマンで、始めて3カ月くらいで大阪オープンのカデットの3回戦くらいで負けて、次には両面を粘着ラバーに変えて、東京選手権も1回戦で負けた。
両面裏ソフトの粘着ラバーは1カ月半くらいやって、その後、四天王寺に入れてもらったのに、用具を変えられて、それに対応できずに他の選手のように活躍できない自分が嫌になって、親に泣きついちゃいました。
その後、両面粒高をやったり、めちゃくちゃになった時期です。
中学2 年の4月からはフォア表ソフト、バック粒高に戻り、その4カ月後の夏には茨城に転校、戻りました。
バックの粒高は小学生の時にスポンジを入れたりしたけど、弾きやすいのが一枚ラバーでした。フォアは茨城に戻って、「VO>102」を使った瞬間に「あ、このラバーしかない」と思いました。それからは変えていないです。たまにラバーを変えて試してみるんですけど、試せば試すほどこの「VO>102」しかないと思います。

●ー「VO>102」の良さ、出澤さんに合っている部分はなんですか?

変化はさほどないんだけど、回転がかかって安定して打てるのに、スマッシュもしやすい。バックが粒高だから、両面が変化系ラバーではなく、フォアは裏ソフトに近い表ソフトのほうが異質の特徴が出せます。両面異質であってもフォアとバックとのメリハリを付けたかった。

パワー対パワーでの勝負するのではなく、
いかに相手にとって気持ち悪く、
相手の嫌なことをするプレーをするのかが重要です

●ーバックは「カールP5V」を使っていますね。「カール」は種類が多いけど、他の種類は試したんだろうか?

VICTASとの契約の前に他メーカーと契約していましたけど、「カールP5V」の硬さがちょうどよくて、私の打ち方も特殊なので、P5の硬さが一番弾きやすい。
小学生の時から打ち方は同じなので変えられない。粒高を使っているけど、性格が攻撃的なので、我慢して守ることができないんです(笑)。使い始めた頃は福岡春菜さんや中村薫子さんみたいな使い方を参考にするように言われていたんだけど、我慢ができないので、自分で攻撃して得点を決めたいんです。

●ー攻撃的な性格だけど、バックは表ソフトではなく粒高がいいんですね?

フォアも表ソフトでバックもそれだと、単調になるから、攻撃もするけど止めたりもできる粒高が良かったですね。

●ー「P5」というのは表ソフトに近い粒高ですね。

はい、そうです。「P5」のほうがいいです。

●ー今はどのくらいでラバーを替えるんだろう。

バックの「P5」は4日間くらいです。練習は平日は4時間、週末は6時間くらい練習します。高校の時に長崎美柚選手と練習したら、直前にラバーを替えたのに、練習1コマで粒が切れました(笑)。長崎選手のボールがすごいんです、回転量が(笑)。ユニバーシティゲームズ卓球競技(旧ユニバーシアード)の時には2日、3日で替えました。

●ーラバーを替える時、粒の切れる時には「あ、これはだめだ」とわかるんですか?

わかります。ネットミスが多くなるので。

●ーフォア面の「VO>102」はどうですか?

2週間くらいは大丈夫です。ただ使っていると、粒の角が丸くなっていくのがわかって、弾きも悪くなります。
回転もかからなくなります。試合の2日前には替えますね。バック面は試合直前にラバーを替えても大丈夫ですが、表ソフトのほうは2日前ですね。

●ーバックの粒が切れやすいのは、出澤さんはバック面でブロックではなく、攻撃するから切れるんですね?

そうです。インパクトでも強く当てることを意識しているので、切れやすいのだと思います。

●ーこれだけ長く使っていたら、もうなかなか変えられないですね?

もう一生変えられないと思います。最初は用具で勝っていたんですけど、Tリーグとかに出たら用具で勝てるレベルではないです。回転量が少ないのであのレベルで勝つのは難しいけど、もっと技術力を磨いて勝っていくことが楽しいと思っています。

●ーこの用具の難しさとはなんだろう?

ひとつのことだけだと慣れられるので、相手を見ながら、この相手のこの場面ではどういうボールが良いのか、何通りもある中で選んでいくことが必要で、それをしないと相手のチャンスボールになってしまいます。

●ー戦術面を考えたり、タイミングの差とか、表ソフトとの球質の差、幅を持たせることが大切ですね。

同じ打ち方ばかりになってしまうと単調になると小学生の時からずっと言われていました。変化をつけて、相手がワケわからないというようなプレーをするしかないです。真っ向勝負で、パワー対パワーでの勝負するのではなく、いかに相手にとって気持ち悪く、相手の嫌なことをするプレーをするのかが重要です。
<取材:卓球王国>

2023年全日本大学選手権シングルス優勝の出澤杏佳

2023年全日本大学選手権シングルス優勝の出澤杏佳

出澤選手の使用用具

フォア面 VO>102
表ソフト
5,500円(税込)
https://www.victas.com/ja_jp/products/rubber/pimplesout/spin/vo-102

バック面 カールP5V
一枚ラバー(OX)
3,960円(税込)
https://www.victas.com/ja_jp/products/rubber/longpimples/curl-p5v